政府専用機は双発機か4発機か?
先日羽田空港を離陸したJALのボーイング777-300ERのエンジントラブルを発端に、「政府専用機は双発機のボーイング777ではなく、エンジンが4基のボーイング747が良いのではないか」という議論が起きています。
個人的には、航空機自体としては、ボーイング777もボーイング747も好きなのですが、果たして政府専用機としてはどちらが良いのか、すでにボーイング777に決定済ではありますが、個人的な意見を書いてみたいと思います。
民間航空機は4発エンジンから双発エンジンにシフト
すでに日本の航空機の中でボーイング747(通称:ジャンボジェット)はごく少数しか運航されていません。
現在運航されているボーイング747は、
- 政府専用機(航空自衛隊所属) ボーイング747-400 × 2機
- 貨物専用機(日本エアカーゴ) ボーイング747-400F × 5機、 747-8F × 8機
のみであり、たったの15機になります。
JALもANAもボーイング747を運航していましたが、2014年3月にANAが747を退役させてからは、日本の民間航空会社の旅客用機材としては利用されていません。
世界の航空会社を見てみれば、まだボーイング747を運航しているところはありますが、機材更新のタイミングをむかえ、どんどんと双発機にシフトしています。
こちらは日本路線からジャンボジェットを退役させている記事になります。
→ ユナイテッド航空の747、成田から日本最終便 サンフランシスコ行き
→ キャセイパシフィック航空、羽田からジャンボ最終便出発 747-400退役
一方、旧世代の747から、新世代であるボーイング747-8に移行した会社もあります。代表的な航空会社は、ドイツのルフトハンザ航空になります。
こちらは、現在も羽田・フランクフルト線に就航しています。
→ ルフトハンザ、747-8を日本初就航 羽田に到着
しかしながら、こちらの747-8も各社での導入が進まず、近々製造を縮小・中止と言われています。以下の記事の中でも超大型機の需要減少について記事を載せていますので、よければご覧下さい。
ここに来てエアバスA380を導入するANA
日本の航空会社として、初めてエアバスA380を3機導入することとなったANA。2019年からリゾート路線強化施策の1つとして、成田・ホノルル路線に投入の予定です。これに関する記事をこちらをご覧下さい。
→ ANAのA380、デザインは「空飛ぶウミガメ」 成田-ホノルル19年就航
ただし、ANAのA380導入については、経営破たんしたスカイマーク支援の一環として、債権者であるエアバスの支援を得るために、スカイマークがキャンセルした機材を導入したためと言われています。
ちなみにエアバスのA380も発注は思わしくなく、今後については不透明です。
→ エアバス、A380減産へ 18年から月産1機、損益分岐点は到達
エアバスとしてもA380受注のためにいろいろと手は打っているようですが、完全にエアバスA350への流れになっていますね。
→ エアバス、A380plus開発調査 大型ウイングレット装着、燃費4%減
各国の政府専用機の状況
民間航空機は、上記のように、エンジンが4つある4発機から、燃費効率に優れた双発機にシフトしています。一方、同じ旅客機でありながら、用途が特殊な政府専用機の状況はどうなっているのでしょうか?
ボーイング747などの4発機を運用しているのは、調べたところは以下の各国になります。
- アラブ首長国連邦
- アメリカ合衆国
- オマーン
- サウジアラビア
- バーレーン
- 日本
- ブルネイ
思ったよりも少ないですね。
独自政府専用機を持たずに必要時に国営航空会社の747などをチャーターして運用している国もあるようです。(韓国やクウェートなど)
国の規模によって運用する機材も変わってきますが、やはり超大型機を運用している国は少ないですね。
政府専用機の目的
国によって目的は若干変わってくるとは思いますが、日本の場合、政府専用機の利用目的としては、
- 政府要人の輸送
- 在外の自国民保護
となっており、国が所有し、航空自衛隊が管理・運用を行っています。
そして、政府専用機は、要人を乗せた通常任務機と、予備機である副務機の原則として2機体制で運用され、30分程度の間隔とあけて、運航しています。
これは、通常任務機に故障等がおき運用できなくなった場合には、副務機がすぐに対応できるようにするためで、大規模なバックアップ体制が常に取られているということになります。
この点を考えると、政府専用機に求められる要件というのが明確になってくるのではないかと思います。
日本政府が次期政府専用機の提案にあたっては、2014年時点で以下の3つの要件を提示しています。
- アメリカ東海岸への直航が可能なこと。
- 天皇陛下や内閣総理大臣の輸送に必要な装備(貴賓室、執務室、秘匿通信機器等)と随行員、乗務員等の座席を確保できるスペースを有すること。
- 将来にわたって、国内で民間航空会社等による整備体制が確保される見通しがあること。
こうなると、機種としては、必然的にボーイング777-300ERに限らてしまいます。
2014年時点では、すでにボーイング747は、国内ではJAL・ANAともに運用していませんでしたし、エアバスA350もこの時点ではまだ就航前です。
ちなみに提案段階では、JAL・ANA両社ともボーイング777-300ERで提案しましたが、その後、整備委託をANAが請け負うことになり、JALは現行の政府専用機ボーイング747の委託で終了することになりました。
その後、JALが長距離用機材をボーイング777からエアバスA350に切り替えることを決定したのは、ここが契機かもしれませんね。
政府専用機としてのボーイング777の信頼性は?
今回のJAL777-300ERのエンジントラブルを受けて、「双発機は危険だ。やはり4発機が必要だ」という意見が出ていますが、果たしてそうなのでしょうか?
ボーイング777-300ERに限らず、航空機の安全性については、イケてる航空総合研究所のブログを書かれている「いけてるこうくう」さんが、以下の記事を書かれています。まさに書かれていることに納得です。それにしても、ものスゴイ数のブックマークがされていますね。うらやましいです(笑)
私自身は航空機の専門家ではなく、ただの航空機ファンの1人ですが、このように考えます。
双発機の信頼性の向上は素晴らしい
双発機の場合は「エンジンが1つ故障した場合にどれだけの距離を飛んでいいか」というETOPS(イートップス)という民間航空機のルールが定められています。
これは、太平洋上や大西洋上など洋上を飛行する際、近くの降りられる空港までの飛行時間を定めたものになります。
陸地を飛んでいれば、すぐに近くの空港に降りることができますが、洋上だとそうはいきませんよね。
ボーイング777-300ERの場合、ETOPS330となっており、330分(5時間半)以内に着陸できる空港がある範囲であれば飛行することができます。
ちなみに最長のETOPSは、エアバスA350-900が取得したETOPS370となり、370分(6時間10分)以内に離陸できる空港があれば良いことになります。
このETOPSが伸びたことにより、航空機は昔のような陸づたいのルートではなく、洋上をなるべく短距離で飛行できるようになり、時間短縮・燃費向上を果たすことができるようになったのです。
飛行機が飛ぶために重要なパーツであるエンジンの信頼性が大幅に向上したことにより、「4発機ではなくては信頼性が低い」ということにはならないと思います。
政府専用機は2機運用
先ほど、「政府専用機の目的」のところでも書きましたが、日本の場合、政府専用機は原則として2機体制で運用されます。危機管理という意味では非常に贅沢な運用をしています。
非常に信頼性が高い航空機が、仮に何かの事態で異常が発生しても、すぐにバックアップの副務機がその機能を担うことができるので、問題はないと考えます。
常に2台運用することを考えると、その維持・運用費はなるべくコストをかけないのが望ましいので、そういった点では、民間航空機でも主体となっている双発機にシフトするのは、経済合理性からも納得できるものです。
こういった理由から、政府専用機が双発機であるボーイング777-300ERになるのは、必然的な流れでしょうね。
アメリカ合衆国の大統領専用機とは利用用途が違う
よく政府専用機として比較されるのは、アメリカの大統領専用機であるボーイング747(VC-25)です。エアフォースワンと呼ばれることも多いですが、エアフォースワンは、機材の名前ではなく、アメリカ合衆国大統領搭乗時のコールサインです。詳しくはこちらの記事に書いているので、良ければご覧下さい。
大統領専用機は、日本の政府専用機とは少し利用目的が違います。
一言でいうならば、
- 日本国政府専用機; 要人輸送と海外災害時の邦人救出
- アメリカ大統領専用機; 動くホワイトハウス
となります。
日本の政府専用機は、主として移動手段としての政府専用機ですが、アメリカ大統領専用機の場合は、何かあったらホワイトハウスで執務しているのと同様の仕事が行える環境が揃っています。
そのため、日本の政府専用機以上に、信頼性・装備といった点で非常に高い要求が求められるのです。そういったこともあり、次期大統領専用機は、大きさなども考慮してボーイング747-8が選ばれたものと推測します。
ちなみに日本の政府専用機は2機体制で運用していますが、次期大統領専用機は、3機体制で運用されるようです。(現行は2機体制)
費用は40億ドル(4400億円)とも言われているため、1機あたりは1,500億円程度かかることになります。そもそもの機体価格が300億円程度なので、改修や各種設備のために機体価格の数倍の費用をかけることになるのですね。
結論
双発機の信頼性向上は目覚ましいものがあり、あえて効率性の悪い4発機を選ぶ必要がない。
整備・運用を考慮すると、日本の航空会社が運用している双発機がやはりベスト。
となると、やはりANAのフラッグシップ機、ボーイング777-300ERで決まり。
という感じでしょうか?
これからも政府専用機のニュースは追いかけて行きたいと思います。
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